注文住宅・リフォーム・不動産など11事業を抱える建設・不動産グループのアイニコグループが、生成AIを全社で内製化して年間2,247時間の業務削減を達成した、という事例です。
「IT部門がない」「何から始めればいいか分からない」というスタート地点が公開されているところが、中小企業から見ると珍しいタイプの事例です。 大企業の派手な削減事例ではなく、現場目線の出発点が近いので、年商5億規模の会社でも参考にしやすいと思います。
僕が注目したのは、削減時間(2,247時間/年)そのものよりも、「IT部門なし+外部支援+社内推進WG」という組み合わせで全社展開を回している構造です。 ここを真似ないと、「ChatGPTを社員に配布したけど誰も使わない」状態に着地しがちです。
バックオフィスの課題
11事業を持つ建設・不動産グループで、よくある構造的な課題はこんな感じです。
- IT部門が存在しない or 兼任で、システム標準化が進んでいない
- 業務ツール(チャット・ファイル共有・経理)がバラバラに並走している
- 不動産物件情報のチェック・転記など、定型作業が常時発生している
- AI導入しても「使っているが成果につながらない」状態で止まりやすい
このタイプの会社は、ツールを入れること自体は難しくありません。 難しいのは「現場で誰がどう使うか」を回す仕組みづくりの方です。
生成AIをどう導入したか
PRTIMESの公開情報(2026-05-13)の範囲では、以下の構成です。
- 対象: アイニコグループ全10部門
- 開始時期: 2024年10月、社内AI活用推進ワーキンググループを立ち上げ
- 体制: 外部パートナーTHAの伴走支援+全社AI勉強会+毎週の定例プロジェクト
- 自動化した業務(公開情報の範囲):
- Google Workspace × ChatWork連携の自動化
- 経理業務の効率化
- 不動産物件情報の自動チェック
具体的な生成AI製品名(ChatGPT Enterprise等)は、プレスリリース本文では明記されていません。 一次情報では未確認のため、ここでは「生成AI全般」と読んでおきます。
ポイントは、「ツールを配ったら終わり」ではなく、外部伴走+社内勉強会+部門横断の定例を全部組み合わせたところにあります。
年2,247時間削減の内訳と実態
プレスリリースで報告された主要な数値は以下です。
- 業務削減: 年間2,247時間(全社合計)
- 対象: グループ全10部門
- 期間: 2024年10月の開始から約1年半の累積
注意点として、これは全社合計の削減時間です。 「営業1人あたり月15時間」のような個別職種の数値は、公開情報の範囲では明記されていません。
社員数や事業ごとの削減配分が分からないので、「1人あたり何時間削れたか」は単純割り戻しで断定しないようにしています。
それでも全社で年2,247時間が削れた事実は、「IT部門なしでも内製化で動ける」という参考線として、中小企業にとって意味があります。
中小企業で再現するなら
ここからが本題です。同じ思想を年商5億規模・社員30名の建設・不動産会社で取り入れるならどう削るか。
構成
| 項目 | アイニコグループ | 中小企業(年商5億・社員30名・建設/不動産) |
|---|---|---|
| 対象 | 全10部門 | 経理・営業事務・物件管理の3部門 |
| ツール | 生成AI(製品名非公開) + Google Workspace + ChatWork | ChatGPT Team(月3,000円/人〜、2026年4月時点。要最新価格確認) + 既存Google Workspace/ChatWork |
| 体制 | 外部パートナー伴走+社内推進WG | 既存社員から推進担当1名+外部支援月5〜10時間 |
| 月額費用 | (非公開) | 推定 月3〜6万円(利用者10〜20名分、2026年4月時点) |
| 初期費用 | (非公開) | 推定 50〜150万円(業務棚卸し+プロンプトテンプレ整備+社内勉強会) |
| 期間 | 約1年半(継続中) | 3〜6ヶ月でPoC→部門展開 |
評価軸スコア
| 評価軸 | スコア |
|---|---|
| ROI(投資対効果) | ★★★★☆ |
| 再現性(中小企業) | ★★★☆☆ |
| 難易度(低いほど簡単) | ★★★☆☆ |
(難易度=数字小さいほど簡単)
スコア根拠は以下です。
- ROIが高めなのは、全社展開できれば年間数百時間規模の削減が複数部門で重なるため
- 再現性は中程度。外部伴走と社内推進WGを両方仕込めるかが分岐点
- 難易度は中程度。ツール導入自体は易しいが、業務棚卸しと運用設計が必要
前提条件・必要データ
- 既にGoogle WorkspaceかMicrosoft 365、ChatWorkかSlack等を導入済み
- 各部門で「毎月発生する定型業務」を3つ以上洗い出せる
- 経営層が「AI活用を全社方針として明示する」覚悟がある
- 外部伴走を半年〜1年は使える予算がある
失敗条件・適用しないケース
- 経営層がAI活用を「現場の自主性に任せる」と言って終わる(推進WGが立ち上がらない)
- 部門ごとにツールがバラバラで、横展開できる共通基盤がない
- 「ツールだけ配布」で、業務棚卸しと運用ルールを後回しにする
- 物件情報のような機微データの扱いルールが未整備のまま動かす
「生成AIを入れれば年2,000時間削れる」わけではありません。
経営方針として明示→部門横断WG立ち上げ→外部伴走+社内勉強会→業務棚卸し→ツール導入と運用ルール整備、という5ステップを踏んで初めて、全社規模での削減が見えてきます。
「IT部門なし」の中小企業ほど、初動の体制設計に時間をかける価値があります。
出典・参考
市野
愛知県岡崎市でAI活用支援を手がける一人社長。 中小企業の現場でAIを実装してきた経験から、他社事例を「うちで再現するには」の視点で読み解いて発信中。

