東京都が、全庁の職員約6万人が使える生成AI共通基盤「A1(えいいち)」の運用開始を、2026年4月9日に発表した、という事例です。
「行政の話でしょ、うちの中小企業には関係ない」と思った方、ちょっと待ってください。 6万人規模の組織で「各部門が勝手にAIを入れる」を止めて「共通基盤に寄せる」判断は、社員30名の中小企業でも同じ構造で必ず必要になります。
僕が注目したのは、削減時間の数値ではなく、「都職員が自分でノーコードで業務アプリを作れる」設計にしたところです。 ここが「全社導入したけど誰も使わない」を防ぐ肝だと思う。
各局バラバラ導入の課題
行政組織・大企業・多拠点の中小企業でよくある構造的な課題は、こんな感じです。
- 各部門・各局が別々に生成AIツールを契約している
- ガイドラインが部門ごとに違い、機密情報の扱いが不統一
- ベンダーが分散していて、費用の全体像が見えない
- 「他部門でうまくいった業務改善」が横展開されない
このタイプの問題は、単にツールを一つに揃えるだけでは解決しません。
「共通基盤+全庁ガイドライン+誰が使えるかの権限設計」の3点をセットで作らないと、結局また各部門が抜け道でツールを追加してしまいます。
A1をどう導入したか
東京都の公式発表(2026年4月9日)の範囲では、以下の構成です。
- 対象: 都職員約6万人
- 名称: 生成AI共通基盤「A1(えいいち)」
- 開発体制: デジタルサービス局とGovTech東京が連携
- 特徴: ノーコードで職員自身が業務アプリを開発可能
- 展開: 開発したアプリは組織内で共有、他自治体での再利用も想定
公式資料で例示された活用ケースは以下の3つです。
- 契約仕様書案の作成支援
- AI導入・活用時の対応ポイントのサポート
- 都議会議事録に基づく答弁検討の支援
裏側のインフラ構成(基盤モデル・クラウドの詳細)は、この発表の範囲では公表されていないため、ここでは断定しません。
6万人展開の内訳と実態
一次情報の範囲で読み取れるポイントは以下です。
- 全職員が同一基盤で生成AIを利用できる体制に統一
- ノーコード開発を前提として、IT部門への依頼待ちを減らす設計
- 「2050東京戦略」の一環として位置づけ
注意点として、「文書業務が◯%短縮」といった効率化数値は、この発表の一次情報では未確認のため、ここでは断定しません。
大事なのは数値そのものより、「各局分散→共通基盤集約」の構造変更が、6万人規模で意思決定されたという事実の方です。 中小企業でも、部門ごとにAI契約が増えてきたタイミングで、同じ判断はいつか必ず必要になります。
中小企業で再現するなら
ここからが本題です。年商5億規模・社員30名の会社、または職員100〜500人規模の中規模自治体で同じ思想を取り入れるならどう削るか。
構成
| 項目 | 東京都(6万人) | 中小企業(社員30名) / 中規模自治体(職員300名) |
|---|---|---|
| 対象 | 都職員約6万人 | 全社員 or 全職員 |
| 基盤 | 生成AI共通基盤A1(自組織構築) | ChatGPT Team / Claude for Work / Copilotの中から1つに寄せる(月3,000円/人〜、2026年4月時点。要最新価格確認) |
| 開発 | ノーコード内製アプリ | GPTs / Claude Projects / Copilot Studioで業務テンプレを共有 |
| 月額費用 | (非公開・大規模独自開発) | 推定 月10万〜30万円(30名×月3,000〜1万円) |
| 初期費用 | 独自基盤構築 | 推定 30〜100万円(社内ガイドライン策定+研修+テンプレ整備) |
| 体制 | デジタルサービス局+GovTech東京 | 情シス兼務1名+外部支援月10時間 |
| 期間 | 段階展開 | 3〜6ヶ月でPoC→全社展開 |
評価軸スコア
| 評価軸 | スコア |
|---|---|
| ROI(投資対効果) | ★★★☆☆ |
| 再現性(中小企業) | ★★★☆☆ |
| 難易度(低いほど簡単) | ★★★☆☆ |
(難易度=数字小さいほど簡単)
スコア根拠は以下です。
- ROIが中程度なのは、共通基盤化の効果は間接的で、単発ツール導入より数値が見えにくいため
- 再現性は中程度。ツール選定より「全社統一の意思決定」の方が難しい
- 難易度は中程度。ノーコードとはいえ、ガイドライン策定と権限設計が必要
前提条件・必要データ
- 経営層が「共通基盤に寄せる」意思決定をしている(現場任せだと不可)
- 機密情報の分類ルール(公開/社内/顧客/機密)が明文化できる、または策定可能
- 既存の分散ツールの棚卸しが済んでいる、または着手可能
- 「業務テンプレを共有する」文化を作る前提がある
失敗条件・適用しないケース
- 各部門の独自ツール契約を止められない政治力学がある
- 機密情報の分類がグレーのまま運用しようとする
- 「基盤を入れれば使ってくれる」と思って、テンプレ整備・研修を省略する
- 全社員が15名以下(共通基盤化するより個人契約の方が身軽なフェーズ)
「共通基盤を入れれば全社の業務が自動的に速くなる」わけではありません。
分散ツール棚卸し→機密分類ルール策定→共通基盤選定→テンプレ整備→全社展開、という5ステップを踏んで初めて、共通基盤化のメリットが実務で回り始めます。
特に「機密分類ルール」の未整備は、後から必ず刺さる落とし穴です。
出典・参考
市野
愛知県岡崎市でAI活用支援を手がける一人社長。 中小企業の現場でAIを実装してきた経験から、他社事例を「うちで再現するには」の視点で読み解いて発信中。
