長野市民病院が、ユニリタのセキュア生成AI「SecuAiGent」を導入して、年間5,472時間(月あたり約456時間)の業務効率化を達成した、という事例です。
医療現場のAI導入は「機密性が高くて無理」という声をよく聞きますが、ここは特許技術で外部にデータを出さない設計を採用しています。 評価期間2025年4月〜2026年1月で職員111名が実利用したという、実運用ベースの数字です。
僕が注目したのは、削減時間の大きさより「退院サマリ作成が10分→25秒」という工程単位の具体性です。 「業務が効率化しました」ではなく、どの作業が何秒になったかまで開示されているので、他の医療機関でも再現可否を判断しやすい。
医療現場の書類処理の課題
病院・クリニックでよくある構造的な課題はこんな感じです。
- 退院サマリ・診療録の作成に医師の時間が大量に取られる
- 患者情報の収集(既往歴・投薬歴等)を毎回一から集める手間
- 機密性が高くクラウドAIを気軽に使えない
- 「業務削減したい」と「情報漏えいさせたくない」が両立しにくい
この領域は速度より「外に出せないデータをどう安全に処理するか」が本丸です。 一般的なクラウドAIをそのまま使えないので、セキュア設計のツールが必要になります。
SecuAiGentをどう導入したか
PR TIMES掲載情報(2026-04-16)の範囲では、以下の構成です。
- 導入先: 長野市民病院
- ツール: SecuAiGent(ユニリタ提供、東証スタンダード 3800)
- 技術: 特許取得済み(特許第7662875号)のセキュア学習技術、学習モジュールをローカライズ環境内に配置して外部データ漏えいを防止
- 評価期間: 2025年4月〜2026年1月
- 利用職員数: 111名
ポイントは「学習モジュールを外部クラウドではなくローカライズ環境内で回す」という設計思想にあります。 一般的な生成AIサービスは入力データを外部に送る構造が多いので、医療機関では採用ハードルが高い。そこを特許技術で解決している格好です。
5,472時間削減の内訳と実態
公開情報で示された主要な数値は以下です。
- 年間削減時間: 5,472時間(月あたり約456時間相当)
- 退院サマリ作成: 1人あたり10分 → 25秒
- 患者情報収集: 1人あたり約30分 → 約3分
- 実利用職員: 111名(評価期間内)
注意点として、これは病院全体の総医療業務を置き換えた数字ではなく、対象工程の合計削減時間です。 最終的な診療判断や退院サマリの承認は当然、医師が行います。AIは「一次ドラフト生成+情報集約」を担う位置づけです。
医療機関で再現するなら
ここからが本題です。中規模病院やクリニックで同じ思想を取り入れるならどう削るか。
構成
| 項目 | 長野市民病院 | 中小医療機関(病床100〜200・職員50〜100名) |
|---|---|---|
| 対象 | 職員111名 | 医師・看護師10〜30名から段階導入 |
| ツール | SecuAiGent(ユニリタ) | SecuAiGentまたは同等のオンプレ/セキュア生成AI |
| 月額費用 | (非公開) | 推定 月10〜30万円(利用者数と契約プランによる、2026年9月時点。要ベンダー見積) |
| 初期費用 | (非公開) | 推定 100〜500万円(環境構築+テンプレ整備+院内教育) |
| 体制 | 院内DX担当+ベンダー支援 | 事務長or情報担当+ベンダー導入支援3〜6ヶ月 |
| 期間 | 評価10ヶ月 | PoC 3ヶ月→本格運用へ段階拡大 |
評価軸スコア
| 評価軸 | スコア |
|---|---|
| ROI(投資対効果) | ★★★★☆ |
| 再現性(中小医療機関) | ★★★☆☆ |
| 難易度(低いほど簡単) | ★★★★☆ |
(難易度=数字小さいほど簡単。★4は「そこそこ難しい」)
スコア根拠は以下です。
- ROIが高いのは、医師の時間単価が高いため削減時間が金額換算しやすい
- 再現性が中程度なのは、セキュア環境構築の初期投資が中小医療機関では重い
- 難易度が高めなのは、機密データ運用ルールと院内ワークフローの再設計が必要なため
前提条件・必要データ
- 電子カルテが導入済みで、退院サマリ・診療録がデジタル化されている
- 患者情報のAI利用について院内規程・患者同意の枠組みが整理できる
- 対象工程の担当者(医師・看護師)がAIの一次ドラフトをレビューする運用に合意できる
- ベンダーとの契約でデータ取り扱い範囲が明文化できる
失敗条件・適用しないケース
- 電子カルテが未導入で、紙カルテ主体のオペレーション
- 「AIに書かせてそのまま提出」を想定して医師レビュー工程を軽視する
- 院内の情報セキュリティ規程がAI利用を想定しておらず、改定に長期を要する
- 導入対象工程を絞らず「全業務にAI」を目指してスコープが発散する
「セキュアAIを入れれば医療業務が自動化される」わけではありません。
電子カルテのデータ整備→対象工程の絞り込み→院内規程の整理→SecuAiGent導入→医師レビュー運用の定着、という5ステップを踏んで初めて、5,000時間規模の削減が視野に入ります。
特に「対象工程を1〜2個に絞る」ことが、初期の成功確度を上げる一番の近道です。
出典・参考
市野
愛知県岡崎市でAI活用支援を手がける一人社長。 中小企業の現場でAIを実装してきた経験から、他社事例を「うちで再現するには」の視点で読み解いて発信中。
