東京海上日動が、PKSHA TechnologyのAIプロダクトとCTC(伊藤忠テクノソリューションズ)の基盤を組み合わせて、コンタクトセンター主要業務にAIを導入した、という事例です。
2026年3月から運用開始で、東京海上日動コミュニケーションズが担うコンタクトセンターが対象。 通話のリアルタイムテキスト化と回答案の自動提示を組み合わせ、入電から終話後の管理業務までをAIで一貫支援する設計です。
僕が注目したのは「PKSHAのAI+CTCの基盤運用」という役割分担です。 1社のSaaSを丸ごと入れるのではなく、AIエンジンとシステム基盤を別々のプロバイダで組み立てた点が、自社設計の参考になります。
コンタクトセンター業務の課題
金融系コンタクトセンターには、こんな構造的な課題があります。
- 入電件数が年間数百万件規模で、純粋に処理ボリュームが大きい
- オペレーターのスキルに応対品質が依存している(属人化)
- 通話後の要約・分類・記録などの後処理が労働時間を圧迫している
- スーパーバイザーのモニタリング負荷も常時高い
東京海上日動コミュニケーションズの場合、対象規模は年間約200万件超の入電。 このスケールだと、1件あたり数十秒の改善でも、組織全体で数万時間の効果になります。
東京海上日動はどう導入したか
公式リリース(2026-03-04)とCTC・PKSHA双方のプレスリリースを総合すると、以下の構成です。
- 対象: 東京海上日動コミュニケーションズのコンタクトセンター主要業務
- AIプロダクト: PKSHA Technologyが提供(カスタマイズ版含む)
- 基盤構築・運用設計: CTC(伊藤忠テクノソリューションズ)が担当
- 機能: 通話内容のリアルタイムテキスト化、回答案の自動提示、入電〜終話後の管理業務までを一貫支援
- 開始: 2026年3月
ポイントは「役割分担で組み立てた」点です。 AIエンジン(PKSHA)、システム基盤(CTC)、業務オーナー(東京海上日動コミュニケーションズ)が分かれている構造で、金融業界の高い品質・セキュリティ要件を満たす設計になっています。
削減効果の内訳と実態
公式リリースで報告された主要な数値は以下です。
- お客様向け応対時間: 最大約30%削減(約58,000時間)
- 代理店向け応対時間: 最大約10%削減(約32,000時間)
- 対象スケール: 年間約200万件超の入電
- 再配分先: 専門性の高い領域への注力
注意点として、これは「最大値」の見込み数値で、実運用での確定値ではありません。 また、AIの自動応対で完結する話ではなく、「オペレーターの応対をAIが支援することで時間短縮する」モデルです。
「AIが全部代わりに対応する」のではなく、「人が対応する時間が短くなる」という解釈が正確です。 生み出された時間を専門性の高い領域に振り向ける、という方針が公式で明示されています。
中小企業で再現するなら
ここからが本題です。年商5億規模の会社や、コールセンター数十席規模で同じ思想を取り入れるならどう削るか。
構成
| 項目 | 東京海上日動 | 中小企業(年商5億・コールセンター10席) |
|---|---|---|
| 対象 | 年間200万件超の入電 | 月数千〜数万件の入電 |
| ツール | PKSHA + CTC(自社設計) | コンタクトセンター向けAI SaaS(月数万円〜の従量課金、2026年6月時点。要最新価格確認) |
| 月額費用 | (非公開・大規模) | 推定 月5〜30万円(席数・通話量による、2026年6月時点) |
| 初期費用 | (非公開・カスタマイズ前提) | 推定 50〜200万円(プロンプト・FAQ整備+音声認識チューニング+CRM連携) |
| 体制 | 業務側+SIer+AIベンダーの三者体制 | 既存CS+外部支援月10〜20時間 |
| 期間 | 段階展開(年単位) | 3〜6ヶ月でPoC→部分運用 |
評価軸スコア
| 評価軸 | スコア |
|---|---|
| ROI(投資対効果) | ★★★★☆ |
| 再現性(中小企業) | ★★★☆☆ |
| 難易度(低いほど簡単) | ★★★★☆ |
(難易度=数字小さいほど簡単)
スコア根拠は以下です。
- ROIが高いのは、応対時間1秒の削減が件数ボリュームで増幅されやすいため
- 再現性は中程度。コールセンター運用が既にある会社向けで、小規模の電話対応ではオーバースペック
- 難易度は高め。音声認識精度・FAQ整備・CRM連携と、整える要素が多い
前提条件・必要データ
- コールセンター(または定型的な電話応対業務)が既に存在する
- 過去の通話ログ・FAQ・応対マニュアルが文書化されている
- 個人情報・金融情報の取り扱いルールが整備されている
- AIの誤認識・誤回答を人が最終確認するワークフローを許容できる
失敗条件・適用しないケース
- 電話応対が月数百件以下で、AI導入コストが回収できない
- 通話内容が雑談中心・非定型で、FAQ化が困難
- 個人情報の扱いが厳格すぎて、外部AIサービスへの音声送信が禁止
- 「AIで自動応答完結」を狙って、人のレビュー工程を省こうとする(金融CSでは事故リスク)
「PKSHAやCTCのソリューションを入れればCS時間が30%減る」わけではありません。
通話ログの整理→FAQ・応対マニュアルの構造化→音声認識のチューニング→AI提示のオペレーター運用→効果測定、の5ステップで初めて、現場で安全に回せる体制になります。
特に金融・保険系は「AIが回答したことの責任」が論点になるので、最終判断を人が引き取る前提を崩さないことが大事です。
出典・参考
- コンタクトセンター領域にAI導入(東京海上日動火災保険、2026-03-04)
- 参考: CTCとPKSHA、東京海上日動のコンタクトセンターにAIを活用した業務支援基盤を導入(CTC、2026-03-04)
- 参考: PKSHA、CTCと連携し、東京海上日動のコンタクトセンターの主要業務プロセスにAIを導入(PKSHA Technology、2026-03-04)
市野
愛知県岡崎市でAI活用支援を手がける一人社長。 中小企業の現場でAIを実装してきた経験から、他社事例を「うちで再現するには」の視点で読み解いて発信中。
