デザイン・Web制作会社のイッカイ(ikka.inc)が、Web/LPデザイン制作の7工程にAIを組み込んだワークフローをZennで公開した、という事例です。
ChatGPT1つで全部進める制作論は溢れていますが、ここでは「工程ごとに別ツールを使い分ける」役割分担まで踏み込んでいる点が面白い。 LP制作の実態が分かっている人が書いている、という空気がすぐ伝わる内容です。
僕が注目したのは「AIは処理を速くする。人間は判断を正しくする」という記事中の一文です。 速くなった分、判断・監修・コンセプトの責任は人間に残る、という思想が運用フロー全体に通底している。
LP制作で属人化しがちな業務の課題
受託のLP制作・Webデザインの現場には、こんな構造的な課題があります。
- 要件ヒアリング・競合分析・ワイヤー・コピー・ビジュアル方向性・実装の全工程が属人的
- ベテラン1人に頼り、若手が育つまで品質が安定しない
- 1案件のリードタイムが長く、提案バリエーションが少なくなりがち
- 「AIで速くなる」と言われるが、どの工程に何を当てるかが定まらない
特に最後の「どの工程に何を当てるか」が決まらないまま、ChatGPT1つで全工程をなぞろうとして失速するパターンが多い。 工程ごとに最適なツールが違う、という前提を持てるかどうかが分かれ目になります。
7工程にAIを組み込んだ運用フロー
元記事(Zenn、ikka.inc、2026-04-09)で公開されている構成は、ワークフローを7ステップに分け、各ステップに対応するAIツールを定義しています。
- 01 ヒアリング・提案: AIでヒアリング項目・競合分析を生成
- 02 リサーチ・企画: Midjourney、Adobe Fireflyでビジュアル方向性を探索
- 03 ビジュアルデザイン: Figma Make、Claude Code、Recraft V3で実装
- 04〜07: 以降の工程でもAIと人間の役割分担を明確化
- 補助ツール: ChatGPT、Cursor、Gemini CLI、Figma MCP、v0(Vercel)
ポイントは「1つのスーパーツールで全部済ませない」設計です。 画像生成系(Midjourney/Firefly/Recraft V3)とUI生成系(Figma Make/Claude Code/v0)で守備範囲を切り分けている。 さらに記事内では「MDファイル設定」(プロジェクト規約をAIに与えるための設計書)まで言及されていて、運用に落ちている証拠だなと思いました。
Figma Makeで骨格約15分の内訳と実態
元記事で公開されている主な所感は以下です。
- Figma Makeの効果: デザインシステム構築後、約15分で骨格を構築できることが実証されている
- 苦労した点: Figma Makeは編集の安定性に課題があり、修正で別箇所が壊れることがある
- 苦労した点: AI生成物の「AIっぽさ」をユーザーが無意識に察知する傾向がある
定量で公開されているのは「Figma Make 約15分で骨格構築」の1点です。 全体の制作時間短縮率は、一次情報では未確認のため、ここでは断定しません。
大事なのは「速くなる工程と、むしろ手間が増える工程がある」と素直に書かれている点。 Figma Makeは骨格作りで強い反面、編集の安定性に課題がある、AI生成物は「AIっぽさ」が抜けない、という弱みも併記されている。 「AI万能論」ではなく、現場感のあるレビュー記事として読めます。
中小企業で再現するなら
ここからが本題です。年商5億規模の制作会社・社内クリエイティブチームが同じ思想を取り入れるならどう削るか。
構成
| 項目 | イッカイ | 中小制作会社(年商5億・社員10〜20名) |
|---|---|---|
| 対象 | LP/Webデザイン制作チーム | デザイナー1〜3名のチーム |
| ツール | Midjourney/Firefly/Figma Make/Claude Code/v0/Cursor等 | まずFigma Make + Midjourney + ChatGPTの3点セット |
| 月額費用 | (非公開) | 推定 月1.5〜3万円(2026年6月時点、デザイナー2名分・要最新価格確認) |
| 初期費用 | 推定低め(社内ナレッジで運用構築) | 推定 30〜80万円(MDファイル整備+ワークフロー設計支援) |
| 体制 | 既存制作チーム | 既存デザイナー+外部支援月5〜10時間 |
| 期間 | 段階的に運用構築 | 1〜2ヶ月で1工程ずつAI化 |
評価軸スコア
| 評価軸 | スコア |
|---|---|
| ROI(投資対効果) | ★★★★☆ |
| 再現性(中小企業) | ★★★★☆ |
| 難易度(低いほど簡単) | ★★★☆☆ |
(難易度=数字小さいほど簡単)
スコア根拠は以下です。
- ROIは高め。デザイナー1人の生産性向上が、そのまま受注キャパに効くため
- 再現性も高め。各ツールが個人プラン月数千円から導入可能
- 難易度は中程度。工程ごとのツール選定とMDファイル設計の学習コストがある
前提条件・必要データ
- Figmaを既に主要デザインツールとして使っている(またはこれから移行できる)
- LP・Web制作案件が月3本以上ある(運用化の意義が出る目安)
- デザイナーがVSCode・コマンドライン系の環境に最低限触れる
- ブランド規約・コーディング規約をMDファイルに言語化できる
失敗条件・適用しないケース
- 制作ツールがPhotoshop/Illustrator中心で、Figma移行コストが大きい
- 「AIに丸投げすれば全工程速くなる」と思って、工程設計を省く
- ブランド監修・最終チェックの体制がないまま量産だけ進める
- 月の制作本数が1〜2本で、ワークフロー整備のリターンが出ない規模
「Figma MakeやClaude Codeを入れればLP制作が速くなる」わけではありません。
工程の棚卸し→各工程に当てるツールの選定→MDファイル(規約)整備→工程ごとに人間チェック→運用ログを回す、の5ステップを経て初めて、属人化を緩めた制作フローが組めます。
特に「AIっぽさ」をどこまで人間が抜くか、というブランド監修の責任は最後まで残る点を見落とさずに、というのがこの事例の現実的な読み方です。
出典・参考
市野
愛知県岡崎市でAI活用支援を手がける一人社長。 中小企業の現場でAIを実装してきた経験から、他社事例を「うちで再現するには」の視点で読み解いて発信中。
